広島風お好み焼きについて その3

とんぺい画像

どんどん焼き

前回、ホットプレートの限界により家庭では関西風を作ると書いた。広島風お好み焼のルーツが一銭洋食だとすると、関西風お好み焼きのルーツは何だろう?
 答えは、「どんどん焼き」らしい。関東で生まれたものとされているが、「どんどん焼き」が関西では「一銭洋食」と呼ばれるようになったということで、要するに同じものと思って良さそうだ。で、その「どんどん焼き」が子供のおやつ扱いだったものを、旦那衆や芸者、踊り子がお座敷で自分たちで焼いて食べる大人の遊戯料理に格上げさせたのが、浅草の「風流お好み焼き 染太郎」という店らしい。そして、それまでは具を重ねて焼いていたのを、客が自分で焼くならより簡単にしようということで、最初から具と生地を混ぜて客に出し、自分たちに焼かせたところから「混ぜ焼」がはじまったようだ。同時にに大阪では「以登屋」という店が混ぜ焼を始めたらしい。どちらも歓楽街から発祥しているわけだ。そしてどういうわけか大阪で定着してしまったので「関西風」と呼ばれるようになった。 私はホットプレート上で遊戯はしないが、混ぜ焼のほうがが焼くのには楽だということに気が付いた点は、染太郎と同じくらいの才能があるといっていいだろう。
 筆者が広島風お好み焼きを家庭で作らないのは、外へ食べに行くほうが楽でうまいからだ。近所にいくつもお店があるし、プロが作るのである。しかも安い。
 自らに反論もしておくが、広島には「徳川」という関西風のお好み焼きチェーン店がある。ここは、18歳の浪人の頃ずいぶん利用させてもらった。東洋観光グループという広島の会社が、何ゆえに関西風のお好み焼き屋をやっているのかといぶかしんだが、広島風がスタンダードな広島人からみると、実は自分で焼くまぜ焼はめづらしく、面白く、また、ふっくらとして美味しいものだった。味とは関係ないが、この店のメニューは徳川家の将軍とその奥方の名前が付けられている。「徳川家綱にブタとイカ入れてください」という注文の仕方になるのだ。毛利元就の地元広島で、徳川の名前を付けて関西風のお好み焼きを焼くなんて、なんだか征服されたみたいでくやしいが、店の人気は根強い。

鉄板で食べさせてくれないお店

いろいろ書いてきたが、尽きないので結論を急ぐことにする。 お好み焼き屋は広島にはたくさんあり、お好み焼きの旨い不味いに比較的鈍く、だいたいどこも美味しいと感じる筆者でもこれは不味い、広島の観光のためにはよろしくない、と思われる店の特徴を述べる。 ただし、これは筆者の偏見であり、筆者の味覚が基準になっているので、参考になるかどうかは、あなた自身で判断して欲しい。
 まず、場所。観光客の多いところはちょっと気をつけたい。何処の観光地もそうだろうが、昔から営んでいる地元のお店に混じって、利益優先のお店が地元以外から入り込んでいる。 そんなお店は鉄板で食べることが出来るカウンター席が少ない。 10数年前に入った広○駅ビルの中にあったお店は、鉄板で食べることが出来ず、すべて4人がけのテーブルに座って、お皿に乗せられてきたお好み焼きを箸で食べた。 お好み焼き屋はへらを使って鉄板で食べられるように設備してあるのが最低条件である。たとえあなたが観光客で「へらを使ったことが無いので箸で食べたい」と思っても設備はチェックして欲しい。鉄板のうえで箸を使って食べればよいのである。 最近では4人がけのテーブルにもちゃんと鉄板が設置されている店が殆どなので、さすがにこういった店はもう殆どないとは思うが。

それらしいファッションのお店

 ラーメン屋さんにも多いが、スタッフがみんなお揃いの黒いTシャツにタオルで鉢巻をしていて、「らっしゃやせぇ!」の声がうるさく、空(から)元気なお店。焼く人がおじちゃんや、おばちゃんではなく、おにいちゃんなのだ。つまりアルバイト。勤めて1週間のバイトが焼くことはないだろうが、訓練したところで立ち居振る舞いなどをみても、やはり全責任を背負って焼いている近所のおっちゃん、おばちゃんオーナーとはお好み焼きに対する入魂の度合いが違う。と思う。この違いは味に出るのだ。観光客相手に近所自慢をして鼻腔をフンフンいわせても仕方が無いので、その反対例。
 老舗のお好み焼き屋さんにも、店主が焼かないお店がある。いつも人が並んでいるので数年前に一度行っただけだが、今もその当時も観光客だけでなく、地元の人も並んで待っている、「み○ちゃん」。ここは先の私の苦手なタイプで、大きい鉄板の前で、鉢巻にTシャツ姿(黒じゃなかった気がする)のお兄ちゃんが3人ならんで焼いているのだが、怖い顔したオーナーらしきおじいさんが客席側からにらみつけながらお兄ちゃんや接客係を目力で動かしていた。絶えず満席で店の外に人が並んでいるのでオーナー一人では間に合わないからだろうが、さすがに老舗。自分が焼かなくても同じクオリティのものを焼かせているぞという気迫が感じられた。たとえバイトでもここで続けることが出来ているなら味を疑う心配はなさそうだ。(あ、独立志向の人たちの修行の場かな?)
 ただ緊張感ありすぎで、ちょっとゆっくり味わって食べる雰囲気がスポイルされてるような気もする。お皿で出されて急いで食べたような記憶がある。逆にそれだけ店側、客側も活気があるともいえるのか。このお店なら観光客が行っても十分満足していただけるだろう。 この老舗の、ファッションの部分だけを真似したお店には気をつけてね、と言いたいのだ。
 「新天地 お好み村」に関しては、父が買って帰ってくれたお好み村のお好み焼きは憧れだったが、新しいビルになってからは、昼間は修学旅行の学生で混雑し、夜は屋台の居酒屋のようだと聞くので、足が向かない。ビール大好きな筆者としてはお好み焼きはツマミにしては量が多すぎるのだ。なので、ここに関してはノーコメント。

お好み焼きはソースが主なのだ

 最後に、お好み焼用ソースは広島では4ブランドある。おたふくソース、カープソース、ミツワソース、センナリソース。私の場合はソースのブランドにこだわってお好み焼き屋を選ぶことはしない。と書くと「知ったげ」ではあるが、何のことはない区別出来ないのである。広島風だろうが、混ぜ焼だろうが(先の徳川はオリジナルソースを作っているそうだ)、お好み焼き用ソースをかければ、お好み焼きになるのである。一銭洋食だろうが、どんどん焼きだろうが、そばだろうが、うどんだろうが、もんじゃだろうが、たこ焼きだろうが、とんぺいだろうが、関係ない。鉄板の上の熱々の粉もんに「お好みソース」と名が付いたものがかかっていれば筆者の脳みそはドーパミンが出てしまうのだ。
 3回にわたって書き続けてきて、導き出した結論をもって今テーマは終わりとしたい。
「お好み焼きで大事なものは、熱い鉄板とお好みソースである。」(キャベツに関しても一家言あるけど)
20160425